失われた2年間

広告を担当しているお客さんで
私が台湾系中国人ということでいろいろ話してくれる人がいるの。
その人から聞いた話で、一度聞いて以来忘れられず、
最近折りに触れ私の脳裏に浮かんでくるものを紹介するね。



シルミドの映画について話していたときに、
そういえば台湾も似たことがあるんだと、その人は話し始めてくれたんだ...。

「台湾を理解するうえで重要なファクターに『失われた2年間』
がある。これは大学を卒業して間もなくの徴兵の2年間をさす。
20代前半の若者が、2年間を徴兵で取られると言うのは
実はとても深刻なハンデキャップを背負うことと同義である。
ピアノ、野球、芸能、プログラミングなんでもいい。
これまで続けてきたことが突然2年間の徴兵で遮断されることで、
ほとんどの人がその道でプロフェッショナルになる道を断たれてしまう。
2年を経た後、その道でそれまで実力、経験を積んできた人との
圧倒的な能力差に、挫折、焦燥感を味わい、乗り越えていかねばならない。
台湾の男性の多くがこの悔しさを味わっている。有能である人ほど
深く。だからこそ COMPUTEX TAIPEIで、世界と対等に張り合うだけの力をつける企業を見ると、
感慨深いものがある。」

「でも徴兵の2年間は決して無駄な空白ではなく、その人なりに何か得たこともあるのではないかしら?」

「そう思える人はいい。確かに問題児だった不良が2年の徴兵を経て鍛えなおされ、更生されてよかったという話もある。しかし少なくない台湾男性にとっては、それまでの生活を断絶する障害以外の何者でもない。国家的に意味があっても、一人一人にはあまりにも大きすぎる負担だよ。」

戦争さながらの訓練で中には命を落とす人もいるんだって。2週間の戦闘シュミレーションでは、山奥に分散し移動しているうちに、指揮官担当者と連絡がとれなくなったり、蛇にかまれてしまったり。


「貴重な体験と言えないこともない。戦闘シュミレーションでは、相手方(適役)に包囲されて、もはやここまでか??というときに、突然それまで音信不通になっていた味方達が現れ、相手方の指揮官の背後に詰め寄り一気に逆転してしまったり。まさに将棋さながらのゲームを現実に味わうことになる。

山奥の移動で食料がとだえると、待ってましたとばかりにスーパーカブに乗ったおじさんがどこからともなくやってきて、お菓子を信じられないほどの高額で売りつけてきたりする。お腹ぺこぺこで食べ物が他に何もなければ、たとえ1,000円のポッキーだって買ってしまうんだよ。」




嘘のような本当の話。私はこの話から何を学べばいいんだろう。何を感じているんだろう。すぐに答えは見つからないけれど、忘れてはいけない重要な話なんだという強い思いが、すでに数週間すぎた今も残っているの。