春の日の思い出

はる

 いつものように、英会話学校へ向かう途中の
土曜の昼下がりだった。5月の始め。
青々と茂る木々から漏れる太陽の光は、
きらきらとしていて、まぶしくて、あたたかくて。
背中にもそのぬくもりを感じながら、ゆったりと、歩いていた。



もうすぐ駅につく。
直進してきた道を駅に向かって折れようとした、
ちょうどそのときだったと思う。
携帯電話の呼びだし音がなったんだ。


「いい天気だねえ」のんびりとした声だった。


「そうですねえ」のんきに返事をした。
しばらく互いに沈黙していた。

「散歩しようか。」急に思いついたように、声の主は提案した。

空を見上げると、ほんとにレッスンをお休みしてもいいくらいの、
気持ちの良い天気で。
さぼって川原を散歩するのもいいなと思ったけれど。
すこしばかり考えて、返事した。

「お誘いありがとうございます。
でも、用事があって、今日はごめんなさい」


またしばらく互いに沈黙していた。
「そう。いそがしいんだね。じゃね。ばいばい」
すっきりした声で主は電話を切っていった。


     ★.。・’*。。☆★.。・’*。。☆★.。・’*。。☆
それから5月の末になって、誕生日がやってきた。
夜の11時になってもクライアントに提案する予定の提案書は、
できあがらない。
周りで残業をしている人も一人、また一人と帰っていく。
とうとう独りぼっちになって、おなかがすいて、
カップラーメンを食べたんだった。

そのときメールが届いた。
「何してるの?」


「誕生日だというのに、仕事がおわりません。まだ会社です。」
やつあたりをするようにぶっきらぼうな返事を書いてしまった。
しばらくすると、またメールが届いた。

「もう帰りなさい」父親のような言葉だった。
時計の針は12時近くをさしていた。
仕事でせっかくの誕生日をつぶすなんてばかげてる。


「そうですね。もう帰ることにします」
返事を返すと、ファイルを閉じ、
提案の資料を片付け、帰る準備にかかった。

しばらくしてメールがもう一度届いた。


「HAPPY BIRTHDAY!」



よくわからないけど、働いただけの元はとった気がした。

     ★.。・’*。。☆★.。・’*。。☆★.。・’*。。☆
やりたいことをして、すきなことをして。
人に媚びずに自分のスタイルを持っている人だった。


私は。
やりたいことをがまんして、すきなことをするのは気が引けて。
人の顔色をみながら言動を選ぶようなところがあった。